愛知県立芸術大学 大学案内2019
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003学長のことばMessage from the President 私は早朝、時間が許す限り散歩をしています。晴れた日の東の空は、朝焼けの朱と淡い紫の東しの雲のめが重なりモネの絵画のようです。頭上を見上げると洗あらい朱しゅから縹はなだ色いろのぼかしが広がり、北斎や広重が見た200年前の空が現れます。また、西の空には艶つやのある藍色の中に、月が、昔話の雪女を思わせる透明で嫋たおやかな姿を見せてくれます。早朝の月は消失前の魂の輝きというか、私の言葉では表現できない朦もうろう朧とした幽ゆうげん玄の美しさがあります。幽玄の玄は玄げんとう冬の玄で、青春、朱夏、白秋の青、朱、白の情感をすべて混ぜ合わせた深い余情、たどり着いた色とも言われています。こんな朝の景色に魅了され、眠い目をこすりながらモネの気分で歩いています。 日本人は太古の昔から暮らしの様々な場面で月を敬愛してきました。そのせいか日本では月を表現する言葉が200近くもあるそうです。ところで、なぜ月は美しいのでしょうか? おそらく月は、すべての生き物にとって美しいわけではありません。美の感性を有する生きモノのみ、月は美しく見えます。美しさを感じる心が月を美しくしているのです。美を感じる心、それは野生にはない人間特有のものです。人間の尊厳と気高さはこんなところにあると思います。 旋律の美しさを感じる感性、味の深さを感じる感性、花の高貴な香りを感じる感性、感じる心は日々の暮らしを豊かにします。芸術は感性を基本に、千の言葉を尽くしても語れないものを伝えることができます。本学は物質的な豊かさから離れ、真の豊かさを目指し、言葉では語りきれないメッセージを音楽と美術で発信しています。 同時に本学は芸術の灯台としての使命があります。芸術の海原を行き交う様々な船は、ピカッと光った光で現在の位置を確認し進む道を考えます。ある船は東へ、また別の船は西へ、空や深海に行く船があるかもしれません。芸術に正解はなく、芸術を目指す人の数だけ新しい芸術が生まれる可能性があります。本学はそれをそっと見守っています。 また、本学は、世界最高水準の芸術を目指すのと同時に芸術の底辺を広げ、より多くの芸術ファンをつくる活動が求められています。そのためには芸術も様々な異分野と交流や連携が必要です。最高の芸術を育みそれを社会に活用する。活用の刺激が一面で芸術を深化させます。新しい刺激は諸刃の刃で、苦しさも同居しますが、創造とはそのようなものだと思います。社会の健全な活動が全てそうであるように芸術も例外ではありません。芸術は常に冒険です。新しい発想のないところに新鮮で魅力のある演奏や作品は生まれません。勇気を持って新しいドアをノックしてみましょう。愛知県立芸術大学 学長白木 彰

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