大阪大学 大学案内2019
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特集教育システム教育環境インフォメーションPersonよくある質問?! トイレに的が付いているとつい狙いたくなるし、ゴミ箱の上にバスケットゴールが付いているとついシュートしたくなります。私はこのような人の行動を変化させる「きっかけ」になるものを「仕掛け」と呼び、仕掛けの原理を体系的に理解することに取り組んでいます。 仕掛けは「行動の選択肢を増やすもの」で、行動変容を強制するものではありません。仕掛けに興味をもった人が、自ら進んで行動を変えたくなるような仕掛けを研究対象にしています。 世の中の問題の多くは人の行動が作り出しています。運動不足や不摂生による不健康といった個人的な問題から、交通安全や犯罪、環境問題といった社会的な問題まで、その原因になっているのは人の行動です。したがって、人の行動を変えることは、これらの問題に対処するためのもっとも素直なアプローチになります。 ただ、これは簡単なようで難しい問題です。経済学で対象とする「合理的経済人」はお金やモノといった物質的な財が「効用」をもたらし、その効用が増えないと人の行動を変えることはできないと考えます。しかし、人はそれほど合理的ではないことは行動経済学などでよく知られており、バイアスや惰性によっても人の行動が変わることが明らかになっています。 仕掛けは、財による効用ではなく、遊び心や社会規範などを利用して行動変容を促すアプローチです。私が提唱する「仕掛学」では、「公平性」「誘引性」「目的の二重性」の3つの要件を満たすものを「仕掛け」と定義しています。公平性は誰も不利益を被らないことです。よい仕掛けはタネがバレても仕掛けの効果が落ちることはありませんが、それは公平性によって担保されます。誘引性はつい行動したくなるかどうかです。目的の二重性は、仕掛ける側の目的と仕掛けられる側の目的をうまくずらすことです。本来解決したい目的があるけれどもそれが達成できないときに、対象者の行動を誘引するような「別の目的」を設定し、結果的に本来の目的を達成することを狙います。冒頭に紹介した例だと、「トイレをきれいに使ってもらいたい」「ポイ捨てを減らしたい」のが本来の目的であるのに対し、「トイレの的を狙ってもらう」「バスケットゴールにシュートしてもらう」のが別の目的になります。人がつい行動したくなる「仕掛け」の研究。松村先生はどんな高校生でしたか?器械体操部に入り、毎日練習と交友に明け暮れ、夜の9時前に家に帰り着くという生活でした。QAトイレの的の仕掛けゴミ箱の仕掛け 私のゼミで取り組んだ仕掛けの具体例を紹介しましょう。映画『ローマの休日』で有名になった「真実の口」を想起するライオンのオブジェを製作し、ライオンの口の奥には自動手指消毒器を設置しました。ライオンの口に恐る恐る手を入れたくなり、手を入れるとセンサーが反応してアルコール消毒液が噴射されるので、結果的に手がきれいになるという仕掛けです。天王寺動物園に設置して反応をみたところ、従来の手指消毒器の使用者が45人だったのに対し、仕掛け設置後は215人が使用しました。また、アルコール消毒液が手に噴射されたときの驚いたリアクションが他の人の興味をひき、さらに人が集まるという連鎖反応も起こりました。 もうひとつ紹介しましょう。お店には試食販売のコーナーがよくありますが、試食すると買わないといけないというプレッシャーを感じるので、それを気にする人にはちょっとハードルが高くなります。このような心理的な働きは「返報性の原理」と呼ばれています。試食の場合、ただで食べ物をもらった恩を返す方法が、商品を購入することしかないのが問題なので、他の選択肢を用意してあげることで試食の促進が期待できます。そこで、本学豊中キャンパスの最寄りにある石橋商店街のパン屋さんに協力をお願いして、パンを試食するときに使うつまようじで人気投票できるようにしました。実際にパン屋さんに設置して反応を見たところ、通常の試食では468人中52人がパンを試食したのに対し(11%)、投票形式の試食では520人中104人がパンを試食しました(20%)。 このように、ゼミでは仕掛けのアイデアを考えて実際に製作し、実験を行ってその効果を検証しています。仕掛けの原理はまだまだわからないことが多く、理論の構築と実証実験による検証の蓄積が不可欠です。 大学は、このようなまだ解明されていない問題を追究する場所です。本学に入学された皆さんと一緒に取り組める日が来ることを楽しみにしています。理論の構築と実証実験を繰り返し、学問として育てる。ライオンの仕掛け試食の仕掛け5

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