大阪大学 大学案内2017
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特集教育システム教育環境インフォメーションPersonPersonよくある質問?! 世の中には実に多くの企業が存在しています。皆さんの生活においても、電気・ガス会社をはじめ、食料品や毎日身につけている服装、またタオルやシャンプーなどの日用品を販売している会社、さらにはテレビ会社や携帯電話会社、コンビニエンスストアなど、意識しているかどうかに関わらず、多くの企業と関係しているはずです。もちろん多くの人は将来、企業に就職するでしょうし、あるいは自ら起業する人もいるかもしれません。 私の研究分野は、このような「企業の価値」を評価することです。企業の価値とは、その企業が存続するあいだにどれだけのお金(現金)を生み出すかによって測定されます。100年先まで存在するかもしれない企業が、また今後まったく異なる事業を手がけるかもしれない企業が、将来にわたっていくらの現金を生み出すのか……そんなことを評価できるのか?と思うかもしれません。ひとつの側面としてはその通りで、本当に難しく、ときに不可能と言われることさえあります。その一方で、現実には企業価値を評価する必要があるときがあります。例えば、(最近の例ではイオンがダイエーの株を購入するなどの)企業買収のときや、親族が経営する企業を相続するにあたり相続税を計算するときなどです。これらの状況では、評価した金額に基づいてお金を支払う側と受け取る側がいるため、一方はより高い金額を、他方はより低い金額を望むため、皆が納得する適正な価格を求めることは重要な問題となります。実際、裁判に発展する例も数多くあります。つまり、企業価値の評価はたいへん難しい作業である一方、現実にはその評価を必ずしなければならない状況が存在しているわけです。 また、ニューヨーク、ロンドン、東京などの株式市場では日々、株価に基づいて企業の株式が取り引きされています。このときの売買の判断基準のひとつも、現在の株価が本来の企業価値よりも高いか低いかになります。企業価値の評価を正しく行なうことは、優れたアイデアを持つ企業により多くのお金が集まることに寄与すること、つまり株式市場がより効率的に機能することに貢献し、世界経済が正しく機能し、人びとの生活する社会をより豊かにすることに役立ちます。このようなことの基礎として、企業価値を評価する方法についての多面的な研究が重要になっています。現実に必要とされる「企業の価値」を評価するための研究。株主価値・市場指標・会計指標財務諸表の予測 ところで、企業に関する重要な情報のひとつは、「複式簿記」と呼ばれる仕組みによって生み出される会計情報です。この複式簿記は、1494年に出版された、数学者・パチオリ※1の『スムマ』と呼ばれる世界初の簿記書に説明されているたいへん歴史のある仕組みと言えます。また日本では、福澤諭吉による翻訳書『帳合之法』(帳合は簿記のこと)が1873~1874年に4冊にわたって刊行され、広く紹介されることとなりました。この複式簿記という記録方法はシンプルな構造をしていますが、企業の財産を記録し、また日々の活動による財産の変化を継続的に記録することで、ある時点で企業にどれだけの財産があるかを示したり、1年間でどれだけの財産の変化があったかを示したりする「決算書」と呼ばれる表を作成することができます。企業の決算書は、家庭における家計簿のようなもの。あるいは、企業がどれだけの利益(もうけ)を出せたかということを示しますので、高校生の皆さんにとっての成績表のようものとも言えます。 私の行なっている会計情報を用いた企業価値評価という研究分野では、「企業の価値」を決算書に示された会計情報で表すことから始まります。企業の価値は、どれだけの現金を生み出すことができるかによって測定されますが、この企業価値を現金だけでなく、決算書にあるさまざまな会計情報を用いて書き換えることから始まるのです。いわば座標軸を変えてみることで、企業価値を評価する有用な視点が得られることがこれまでの研究からわかっています。そして、長い歴史のある会計学の分野ですが、2000年になってから、会計情報を対数(log)に変換して企業価値との関係を表すことで、将来の予想をより正確に行ない、精度の高い企業価値の評価を行なえることがわかってきています。このような2つの「座標変換」に加えて、私は現在、企業のビジネスモデル(どのような仕組みで企業が価値を生み出しているか)という視点を加えることで、さらに精度の高い企業価値の評価を行なえるのではないか、と考えています。単に利益などの数値を見るだけでなく、その数値がどのように生み出されているかという企業経営の仕組みを、企業価値の評価に積極的に取り込む方法を考えているとも言えます。さまざまなアイデアに基づく理論的な仮説を立て、データを用いて統計的な検証を行なうことによって、より精度の高い企業価値の評価を行なうことができたかどうかを調査することは、「企業活動を科学する」経済学・経営学の分野においても、エキサイティングな研究トピックであると感じています。※1 イタリアのルネサンス期に、レオナルド・ダ・ヴィンチなどとも交流のあった数学者。企業価値について、より精度の高い評価を行なうために。椎葉先生はどんな高校生でしたか?受験勉強を始めるまでは、バレーボール部で活動の毎日。ときに周りが見えなくなるくらい集中力が高かったと思います。QA企業価値評価5

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