大阪大学 大学案内2017
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特集教育システム教育環境インフォメーションPersonよくある質問?! 私は2000年ごろから、「役割語」についての研究を提唱し、協力者とともに研究を進めています。役割語とはなんでしょう。わかりやすい例として、次のようなセリフと、図1に示した人物のイラストを見比べて、結びつけてみてください(すべて、1対1になるように組み合わせてください)。 答え合わせはこの文章の終わりにとっておきましょう。解答は難しかったでしょうか。たぶん、さほど時間はかからなかったと思います。ここで役割語の特徴をまとめておきましょう。 ●おもにフィクションの中で、話し手の人物像  (性別、年齢・世代、職業・階層、出身地域・国籍・人種等)によって、  話し方に一定のパターンが見られる。 ●そのパターンは、単語の選択  (うん、あら、そうじゃ、わたくし、おれ、~だぜ、~わよ等)のほか、  文法的な特徴、特定の言い回し、音声的特徴にも関わっている。 ●その知識は、多くの日本語話者に共有されている。 では、役割語はなぜ存在するのでしょうか?ヒントになるのは、フィクションではなく、現実の日本語にもさまざまなバリエーションがある、という点です。それは地域による方言であったり、男女の言葉遣いの違いであったり、高学歴を必要とする職業かそうでないか、といった特徴による話し方の違いなどです。役割語は、このような違いを強調し、わかりやすく類型化したものと言えるでしょう。じつは現実の話し手は、同じ集団の中でもさらに細かい違いがあったり、個人個人でも言語的な違いがあったり、時間とともに変化することもあって複雑です。しかし役割語では「この集団には、この言葉遣い」というふうに、単純化される傾向があります。また、現実の話し方とずいぶん異なる役割語もあるのです。例えば図1の③で示した言葉遣いは〈老人語〉としてまとめることができますが、老人の誰もがこのように話すわけではない、というよりも老人だからといってこのように話す人はむしろほとんどいないと言ってもよいのです。つまり役割語は、現実とは必ずしも一致しない、話し手の類型を表現するための一種の記号のようなものであると言うことができます。 なぜこのような表現がフィクションの中で用いられるかと言えば、役割語を用いることで、その話し手がどのような人物像であるかということを、説明的な表現を費やさずに端的に示せるからという理由によると言えるでしょう。話し手の人物像を表現する、記号のような「役割語」。標準語を中心とし、それとの違いの大きさから、さまざまな役割語が惑星のように配置されるイメージ。※平面配置は直感によるもので、数理的根拠はありません。役割語の宇宙 私は、このような役割語の存在に気づいて以来、6冊ほどの図書を執筆・編纂してきました。それらの著書では、役割語の歴史、バリエーション、外国語との対照などを扱っています。このような役割語の研究にはどのような意味があり、またどのような役に立つのでしょうか。 まず純粋な知的関心として、日本語にはどんな役割語があり、どのような歴史を経て生まれてきたのかを知りたい、という欲求があります。またそれは、外国語にも同様の現象があるのかという関心にもつながるでしょう。そのような知識は、フィクションをよりよく理解するための手がかりとなりますし、またよりよい翻訳や、外国語教育・日本語教育に取り込むことによって教育の質を高める、という効果も持ちます。 実際、役割語研究は日本人だけでなく、次第に外国人の興味も惹きつけつつあります。それは、マンガ・アニメといった日本のポピュラーカルチャー作品が、多くの外国語に翻訳され、若者の関心を集めているということとも関連しています。そのような外国語話者との共同研究により、世界の言語における役割語の共通性、個別性ということもより明らかになっていくものと思われます。 役割語についてのこれまでの研究成果は、右記ブログに随時公開しています。また、本学文学部の授業でも取り上げています。関心を持った皆さんにはぜひ、そのサイトやそこで紹介している図書を読んだり、授業などに参加したりしてほしいと思っています。マンガ・アニメとともに、外国語にも広がる研究の輪。金水先生はどんな高校生でしたか?サークル活動では、オーケストラ部に所属。フルートと指揮を担当していました。QA① うん、そうさ、ぼくが知ってるのさ。② あら、そうですわよ。わたくしが、存じておりますわ。③ おお、そうじゃ、わしが知っておるんじゃよ。④ ああ、そうだ、おれが知ってるってわけだぜ。⑤ ええ、そうよ、あたしが知ってるわよ。ABCDE動物語諸方言ヤンキー語スケバン語田舎言葉女ことば標準語上司語老人語大阪弁神様・幽霊語宇宙人語ロボット語外国人(片言)外国人(ピジン)男ことば【冒頭のクイズの答え】 ①D ②E ③A ④C ⑤B【役割語研究の紹介ブログ】 SKの役割語研究室http://skinsui.cocolog-nifty.com/sklab/金水 敏・田中 ゆかり・岡室 美奈子(編)『ドラマと方言の新しい関係̶『カーネーション』から『八重の桜』、そして『あまちゃん』へ̶』(笠間書院、2014)2014.3のシンポジウム記録金水 敏(編)『〈役割語〉小辞典』(研究社、2014)初の語彙辞典金水 敏(編著)『役割語研究の地平』(くろしお出版、2007)論文集 第1弾金水 敏(著)『コレモ日本語アルカ?̶異人のことばが生まれるとき̶』(岩波書店、2014)単著 第2弾金水 敏『ヴァーチャル日本語役割語の謎』(岩波書店、2003)「役割語」初の書籍金水 敏(編著)『役割語研究の展開』(くろしお出版、2011)論文集 第2弾3

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