大阪大学 大学案内2019
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特集教育システム教育環境インフォメーションPersonよくある質問?! 心理学を大学で勉強したことのない一般の方が「心理学」と聞いてまず頭に思い浮かべるのは、心を病んでいる人を助ける、性格を分類する、人間関係の問題を解決する、恋愛の深層心理をテストするなどでしょう。しかし、心理学は一般に思われているよりずっと幅が広く、かつずっと科学的な学問分野なのです。 私の研究領域は知覚心理学と認知心理学です。これらは、脳と心が外界から入ってくる情報を分析し認識し解釈し記憶する仕組みと一般法則を、科学的実験により解明・実証することを目標としています。一般の方が普段は当たり前だと思って気にも留めない知覚と認知は、じつは非常に複雑で興味深いプロセスなのです。いくつかの例を挙げてみましょう。[化粧の知覚心理学] アイメイクにより目の大きさが変わって見える現象は幾何学的錯視を活用しています。図3上において右の目と比べると左の目は大きく見えます(実際は同じ大きさです)。これは二重まぶたと涙袋メイクが目の外側に円形を形成し、「デルブーフ錯視」を生じさせているためであると考えられます。デルブーフ錯視とは、図3右下の単独円よりも左下の二重円の内円のほうが大きく見える現象であり(実際は同じ大きさです)、外円と内円の「大きさ同化」に起因する錯視なのです。アイライン、アイシャドウ、マスカラにより目が大きく見える化粧効果も、じつはこのデルブーフ錯視の応用なのです。 アイラインを濃くすると錯視量はどうなるのでしょうか?私たちは、図4下のようなかなり濃いアイラインによる目の大きさ錯視量を厳密に測定してみました。結果は図4上のグラフです。「上のみアイライン」条件と「上+下1/3アイライン」条件では約5%(面積比では約10%)の錯視量が得られました。ところが、「全周囲アイライン」条件での過大視量は約3.3%(面積比約6.7%)であり、前者より統計学的に有意に小さかったのです。つまり、アイラインを多く使いすぎると逆効果であることが判明しました。アイラインで完全に目を囲んでしまうと錯視が弱まることは、デルブーフ錯視以外の錯視を考慮することで説明できます。このように、目の大きさ知覚には異なる錯視が複合的に影響していると考えられます。[顔認識の心理学] 人間は顔を認識・識別する際に目・鼻・口などの部分特徴の情報処理(要素処理)とそれら部分間の配置を全体的に捉える布置情報処理(全体処理)の両方を活用していることが、さまざまな実験から明らかになってきました。例えば、図2は向きが異なるだけでどちらも普通のモナリザの顔に見えます。次に、この誌面を逆さにして見てください。その大きな違いに驚くでしょう。この現象は、顔を倒立すると脳の顔認識能力が著しく妨害されることを示しています。[錯覚の心理学] デジカメが風景や人物をありのまま撮影するように人間の目は外界をそのまま写し取っている、と思っている人が多いのですが、それは大きな間違いなのです。人間の目に見えている「現実」はすべて脳が網膜からの入力を分析し解釈し推測した結果であり、必ずしも正確ではありません。物理的現実とその解釈である視覚的現実との間に大きなズレが生じる場合を「錯視」と呼びます。例えば図1(ジョバネッリの錯視)では、黒いドットの位置が上下左右ちぐはぐにズレて見えますが、実際にはドットはぴったり縦横に整列しています(定規を当ててみればわかります)。このような錯視図形の形状・提示時間・観察条件などを操作して錯視量を測定する実験により、錯視が生じるメカニズムを明らかにすることができます。[損得予測の心理学] 例えば、皆さんがある会社の株式に投資している(つまり、その会社の株を持っている)としましょう。その株価が4日間続けて上昇したと仮定します。4日間も上昇したのだから、この調子が継続し5日目も上昇するだろうと予測する人もいます。逆に、4日間も上昇したのだから、そろそろ頭打ちで5日目は反転して下落するだろうと予測する人もいます。実際、両者が混在するからこそ株式取引が成立するわけですが、この個人差は何に起因するのでしょうか?私たちの研究グループでは、損得予測の個人差を生じる心理学的要因を解明するための実験研究を行なっています。脳と心の働きを、科学的に解明する「心理学」。森川先生はどんな高校生でしたか?目前の入試に不安を抱きつつも人類の100万年後に思いを馳せる、変わった高校生でした。QA〈図1〉ジョバネッリの錯視〈図3〉化粧の錯視とデルブーフ錯視〈図4〉アイラインの範囲を変えて目の大きさ錯視量を測定した実験結果〈図2〉2つのモナリザ3

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