大阪大学 大学案内2019
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 ここでは研究室で行われている研究を2つ紹介したいと思います。まずは、サイバーセキュリティの安全を実現する暗号解析の研究です。一般的に、安全な暗号とは乱数と区別がつかない暗号です。暗号解析の研究では入力をさまざまに変えることで、乱数と区別がつくような出力を求め、その偏りを使って、元のメッセージあるいは鍵を復元します。私たちの研究室では大量の暗号文のデータを用いてWi-Fiなどで利用される暗号の解読を行い、新たな脆弱性を明らかにしました。さらに暗号アルゴリズムを解析することで、脆弱性を引き起こすアルゴリズムの原因を理論的に証明しました。私たちの研究は、安全な暗号アルゴリズムの構築を可能にし、サイバー空間を守ります。まさに、安全・安心な社会の実現に貢献しているのです。 もうひとつは、社会システムの構築に関する研究です。ビッグデータの解析はさまざまな課題の解決に期待されていますが、ビッグデータの解析では多種多様なデータが異なる機関で収集されることが支障になっています。例えば、高校で部活動の試合中にケガをした事例を考えます。このとき、事故時のスポーツ用具に関するデータは学校で、病院への救急搬送データは消防署で、傷害に関するデータは病院で管理されます。つまり、学校、消防署、病院が同じ生徒の事故の部分情報をそれぞれ独立に管理することになります(表1)。学校での事故の予防には事故の統計的因果モデルの作成が重要ですが、これにはこのように異なる機関に分散するデータから生徒の名前などのプライバシー情報は洩れることなく、同じ生徒の事故の情報を突合できることが必須です。私たちの研究室では多機関に分散するデータを他の機関にプライバシー情報を移動することなく、データ突合を効率的に実現する方式を提案しました。 現在、私たちの方式をがんサバイバーの研究に適用しようとしています。がんサバイバーの研究では、がんに罹患したあと、どのような病気のリスクが高くなるかという疾病解析が必要です。しかし、がん治療を終えたあと、新たな病気では必ずしもがん治療を受けた病院に通院するとは限りません。このため、同一の患者のデータが異なる病院で保管され、がんと新たな病気の因果関係の解析が困難な状況が続いていました。私たちの研究は異なる病院で保管される同じ患者のデータを、患者のプライバシーは秘密にしながら医療情報だけを突合することを実現し、がんサバイバーの疾病解析を可能にするのです(図2)。 情報セキュリティの研究は、数学やコンピュータサイエンスを駆使して、サイバー空間の安全性の確保から新しい社会システムの構築まで実現する幅広い研究分野です。そして情報セキュリティの研究成果は、私たちの周りの社会、医療、学校などさまざまな場所で花開く、非常にエキサイティングな研究なのです。特集教育システム教育環境インフォメーションPersonよくある質問?! 私は情報セキュリティの研究をしています。情報セキュリティの研究は大きく2つに分けられます。1つ目はサイバー空間を守り、安心・安全を構築する研究です(図1)。例えば、インターネットでwebを見ると、アドレスのバーに鍵マークを見つけることがあると思います。これはTransport Layer Security(TLS)通信といって、通信が暗号化され、内容が第三者に漏洩しないように守られていることを意味します。また、自宅や携帯でもWi-Fi(無線通信)を使う機会が多いと思いますが、無線通信でもWPA(Wi-Fi Protected Access)を利用すると、通信は暗号化され、第三者から守られます。2つ目はビットコインのようにディジタルデータを利用して、新たな社会システムを構築する研究です。ビットコインでは日本銀行のような現金を発行し保証する機関が存在しません。その代わりに、ディジタル情報であるビットコインの正しさを分散的にみんなで検証します。ビットコインの正しさの検証や仕組みそのものがセキュリティ技術で構築されています。このように、情報セキュリティの研究は今や私たちの生活とは切り離すことはできません。情報セキュリティ技術の研究とは?宮地先生はどんな高校生でしたか?元気で明るく、話すのが好きな高校生でした。時間を忘れて話してしまい、いつも走って学校や教室に向かっていました。QA〈図1〉身近な暗号の利用事例(webやWi-Fi)社会を守り、新たな社会システムを創る私たちの研究について。〈図2〉がんサバイバーの疾病解析〈表1〉学校の事故における分散データ管理事例(  : データ有り - : データ無し)生徒名学 校消防署病 院用具メーカー救急搬送データ傷害データ9

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