大阪大学 大学案内2017
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特集教育システム教育環境インフォメーションPersonPersonよくある質問?!坂口先生はどんな高校生でしたか?将来の進路にも恋にも悩み多き高校生でした。何を悩んでいたか、具体的に思い出せないけれど…。QA 免疫系は、私たちのからだを病原微生物から守りますが、からだを作っている正常な細胞である分子には反応しません。では、免疫系は自己と非自己をどのように区別しているのでしょうか。この“免疫的自己・非自己”を区別する仕組みがわかれば、自己免疫病(関節リウマチやI型糖尿病など、免疫系が間違って自己を攻撃する結果生じる病気)やアレルギー(花粉などそれ自体は無害な物質に免疫系が過剰に反応してしまう結果生じる病気)の理解が進み、治療・予防が可能になります。また、自己から発生した“自己もどき”であるがん細胞に対して強い免疫反応を起こすことが可能となり、移植臓器をあたかも自己臓器として受容させることが可能となるでしょう。私は、このような問題・課題について40年近く研究してきました。その過程で、私たちの体内にはさまざまな免疫反応を抑制することに特化したリンパ球がいることを見つけ、制御性T細胞(Regulatory T cell)と名付けました(図1)。 制御性T細胞は、ヒトも含めた正常な動物の末梢CD4+T細胞の約10%を占めています。その大部分は胸腺で抑制活性をもつT細胞に成熟・分化したあと、末梢に移動し、異常もしくは過剰な免疫反応を能動的に抑制しています。その証拠として、正常な動物から制御性T細胞を除去すると、甲状腺炎、I型糖尿病など、ヒトの自己免疫病と酷似したさまざまな病変やアレルギーが自然に発症してきます。正常な動物は大量の腸内細菌と共生していますが、制御性T細胞を除去すると、腸内細菌に対する免疫反応が惹起されて炎症性腸炎が起きてきます。ヒトでも制御性T細胞の量的・質的異常によって、さまざまな免疫病が発症してきます。例えば、ある種の遺伝性免疫不全疾患では、制御性T細胞に特異的に発現する転写因子Foxp3の遺伝子異常によって、制御性T細胞の発生・機能に異常が起き、その結果、高頻度にI型糖尿病、甲状腺炎、炎症性腸疾患のみならず、食物アレルギーなど重篤なアレルギーを発症します。このような実験事実、観察結果が長年にわたって積み重ねられ、制御性T細胞は、自己に対する免疫不応答(免疫自己寛容)、免疫恒常性の確立・維持に必須のリンパ球群であることがわかってきました。そして、自己・非自己の境界は決してはっきりと明確なものではなく、ある意味で、制御性T細胞による免疫抑制の程度によって任意に決まってくるとも言えます(図2)。すなわち、自己・非自己に対する免疫応答の有無や強弱を、制御性T細胞を介して制御できるわけです。免疫系は、自己と非自己をどう区別しているのか。※モノクローナル抗体…特定の抗原決定基のみと結合する抗体の集合体。 現在、私たちの研究室は、制御性T細胞の発生・分化機構や、制御性T細胞が免疫反応を抑制する分子機構などの基礎的研究を進めています。例えば、上に述べたFoxp3遺伝子を正常なT細胞に発現させると、機能や表現型の点で、制御性T細胞と同等の抑制性T細胞に転換できます。この転換の分子機構を明らかにできれば、自己免疫病やアレルギーを起こしている自己抗原特異的あるいはアレルギー物質特異的T細胞、また移植臓器を拒絶するT細胞を、逆に自己免疫病、アレルギー、臓器拒絶を抑制するT細胞に転換できるようになるでしょう。また、私たちの体内に生理的に存在する制御性T細胞を増やす薬剤を開発できれば、さまざまな免疫疾患の予防・治療、移植免疫寛容の導入・維持が可能となるはずです。また逆に、制御性T細胞を減らす薬剤を開発できれば、免疫反応を亢進させることができ、その結果、慢性感染症を治療したり、がんに対する効果的な免疫治療を行ったりすることが可能となるでしょう。 実際、制御性T細胞はがん組織に大量に浸潤してがん免疫応答を抑制していますが、制御性T細胞特異的なモノクローナル抗体※を投与し、制御性T細胞を除去することでがん免疫を強化できます。現在、そのような臨床試験が欧米や日本で始まっています。 20世紀初頭に始まる近代免疫学は、ワクチンによる感染症の予防に見られるように、「いかにして免疫反応を惹起・強化するか」の研究を中心に発展してきました。反対に、「免疫反応をいかに抑制するか」の研究も近年急速に進み、制御性T細胞も見つかって、その役割も明らかになってきました。免疫学の研究には、まだまだ面白いことがありそうです。免疫反応を抑制し、自己免疫病やがんなどの治療を目指す。〈図2〉制御性T細胞による免疫制御(自己、非自己に対する免疫応答制御の連続性)〈図1〉制御性T細胞によるさまざまな免疫応答の抑制的制御自己免疫病アレルギー微生物感染腫瘍免疫臓器移植胎児母体免疫寛容免疫代謝疾患活性化T細胞T細胞T細胞とは?骨髄で作られ、胸腺で成熟するリンパ球の一種。ウイルスに感染した細胞を殺す役割を果たすキラーT細胞や、免疫反応を抑制する制御性T細胞など数種がある。胸腺制御性T細胞骨髄Foxp3Foxp3Treg正 常制御性T細胞の量的、機能的異常アレルギー炎症性腸炎自己免疫病非自己9

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