東京大学 大学案内2018
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THE UNIVERSITY OF TOKYO 201855 私は法学部3年時に、カナダ西海岸の都市バンク―バーに位置するブリティッシュコロンビア大学へ交換留学を行いました。約1年の留学経験は、英語力や適応力だけでなく、自分の価値観を問い直し再構築するきっかけを与えてくれました。 留学を終えて、私が最も感じることは「すべての人の自由のために」「全世界の平和のために」といった国際社会において頻繁に耳にするスローガンの危うさです。これらの言葉はその根底で世界共通の正義や価値の存在を前提としていますが、民族や人種を超えて世界中の人々で共有される価値は存在するのでしょうか。 留学先大学では多様な民族や文化のバックグランドを持つ生徒が入り交じって学習や生活を共にし、私はその中で、互いの考え方や根本に存在する価値観の違いを目の当たりにし、その理解を楽しみながら、時には衝突しつつ歩み寄っていくことを体験しました。自分が正しいと思っていた考え方や価値観は私が生まれ育った社会とその文化によって強く影響を受けて形成されたものであり、それまで漠然と信じていた、文化の異なる人々の中でも共有できる「自由」や「平和」といった観念は、絶対的なものではないのではないかという視点を得ることとなりました。 現在、国際社会において力ある一部の文化圏の人々が「全世界の人々の自由のために」というスローガンを掲げ、自身の「自由」の観念に基づいて他留学 (派遣) 経験者大学院法学政治学研究科 修士課程 1年大塚 理央 おおつか りお自分の価値観を問い直す自分だけの留学の意味の価値観を持つ社会に介入するという状況が多々見られます。人権が抑圧された地域に民主主義を広めよう、その結果平和をもたらそう、といった思想、行動は一部の人々が有する価値観の押し付けという危うさを伴っている側面があるように思います。なにが正しく、なにが誤りかということに世界中の人々が賛成する絶対的な答えはありません。だからこそ、多種多様のバックグランドを持つ人々が平等に発言できる議論によって国際社会の規範を形成し、「正義」を追求していかなければならないと考えています。 これまで生きてきた中で形成された価値観は、無意識のうちに私達の考え方を形作っています。そしてその無自覚性ゆえに、自身の価値観を問い直す機会は私達の普段の生活の中で頻繁に訪れるわけではありません。私にとって、留学は自分と向き合う最大の機会となりました。皆さんも大学生活で自分の価値観を問い直す機会を模索してみてください。そしてその一つの選択肢として留学に挑戦してみてください! 国際関係論を専攻する中で、特にアジア地域に関心を持ち、アジア研究の盛んなオーストラリア国立大学(ANU)への留学を選びました。多様な民族が、各自の文化や言語を維持しつつ「オーストラリア人」としてのアイデンティティを持って共存する環境は、日本とは対照的で興味深いものでした。移民の国と呼ばれるオーストラリアは、まさに人種のるつぼであり、「差異を認め合うこと」を重要かつ当然のこととする姿勢を学びました。 ANUにはCollege of Asia and Pacicというアジア・太平洋地域の研究に特化した学部があり、私はそこでアジア学を学びました。ANUはアジア地域からの留学生が多く、地理的な近さからかアジアに興味関心を持つオーストラリア人学生も多いです。私が履修したアジア地域の歴史や政治の授業では、第二次世界大戦時代の話題を扱う場面が度々あり、「日本人」として息苦しさを感じることも少なくありませんでした。日本の植民地支配や第二次世界大戦中のトピックについては、被害国側の立場から述べられることが多く、日本で歴史の羅列として学んできたことの重みを改めて感じました。授業中に、「日本人である」という理由で、他の学生から攻撃的な発言や質問を受けたこともありましたが、そうして多様な意見に触れられることも留学の醍醐味だと思います。アジア地域をアジアの外から見る経験ができたのは、非常に有益でした。交換留学 (派遣) 経験者教養学部教養学科総合社会科学分科国際関係論コース 4年那須川 美里 なすがわ みさと 友人とのウルル旅行授業後に友人とダウンタウンへキャンパスでカンガルーに遭遇授業の一環として地域奉仕活動 「留学の意味って何だろう」̶この問いは、留学前・留学中を通して私を悩ませ続けました。1年間の留学は、4年間の正規留学や大学院での留学に比べ、学びが少ないと思われがちです。しかし、実際に留学を終えた今、留学するという決断は間違ってはいなかったと胸を張って言えます。ずっと日本で育った私にとって、オーストラリアという多民族国家での生活は、毎日が新しい発見と驚きの連続でした。言語や文化の違いから、日本ではしたことのないような苦労も多くありましたが、日本での「当たり前」を見つめ直す機会を幾度となく持つことができました。考え方から振る舞いまで、自分が「日本人」であることを否応にも認識させられ、それを相対化する視点を身につけられたことは、留学で得た最大の成果だと感じています。留学の目的や留学先での生活は十人十色で、「留学の意味」は本当に人それぞれです。少しでも留学に関心があれば、ぜひ一歩踏み出して自分だけの「留学の意味」を模索してみてください。留学生・留学経験者の声

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