國學院大學 大学案内2017
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学びの足跡/テーマ発見から結論を導くまで岩本:私が哲学に興味を持ち始めた契機は、受験生時代の読書体験です。倫理学や分析哲学への関心が高まり、進学先として哲学科の門をたたいたのですが、金杉先生の研究分野「心の哲学」には強く惹かれました。金杉:心の哲学は現代英米哲学の一分野です。現代英米哲学は、レトリックではなく、厳密な論理的分析に基づく議論や考察が特徴で、分析哲学とも呼ばれています。岩本:私は卒業論文のテーマとして「笑い」を選びました。「同じ笑いの対象に対して、笑う人間と笑わない人間が存在するのはなぜなのか」という疑問を出発点として、フランスの哲学者、アンリ・ベルクソンの著作『笑い』の理論にのっとり、この疑問の解消を試みています。金杉:「笑い」というテーマは英米の分析哲学ではなく、むしろドイツやフランスなど欧州の大陸哲学になじみやすいのです。しかし、だからこそ分析哲学を専門とする私がアドバイスすることに、私自身が興味を覚えました。実際のところ、面白みを感じられる論点が多数見られます。岩本:私の思い描く結論は、「人が笑う際には、笑う対象の面白さの度合いとは別に、笑う人間のコンディション(ベルクソンのいう「無感動」の概念)も関係するために、笑う人間と笑わない人間が存在する」というものです。しかし、この結論を導くことに非常に苦労しています。金杉:大切なのは、「哲学者との対話」です。結論ありきではなく、まずは時間を惜しまずに文献を読み込み、先人の言わんとすることを理解しようと努めるのが重要です。その時に思いもよらない発見が生まれ、知的化学反応が起こるのですが、これを恐れるのではなく、ぜひ楽しんでください。岩本:白状すると、「自分自身のユーモアセンスを磨き、女性に好かれるようになりたい」という願望があったことは否定できません(笑)。エッセイレベルにとどまらず、哲学的見地から論文として立証することがこれほど難しいものとは知らず、今まさに「無知の知」を痛感しています。とはいえ、自分自身の関心を突き詰めていく研究の日々は、卒業するのが惜しいと思えるほど充実した時間です。金杉:きっかけは何でもいいと思います(笑)。哲学の面白さは、社会に出てからも日々の中でふと立ち止まって考えるときに味わえるでしょう。ぜひ、これからも考える時間を見つけてください。岩本:論文執筆の中、私自身の気付きとして「アウトプット」の有用性に思い至りました。黙考するのではなく、人の意見を傾聴し、文字として書き起こし、仲間と対話することで、自分自身の考えが深まった気がしています。金杉:それは「客観視」とも言い換えられます。論理的思考には、相手の発言の真意、「どのような考えのもとで言っているのか」と思いを巡らせることが不可欠です。また、解答が見出せない時には距離を置き、別の観点を提示する必要に迫られることもあるでしょう。哲学的作業とは自分一人で行うものではなく、人との交わりの中で成り立ちます。そうすることにより複眼的な物の見方、論理的な思考法を獲得できるのです。岩本:人の笑いを取るには、笑わせる側は冷静であることが好ましいようです。これは「観察眼の鋭い状態」と言えるのではないでしょうか。笑いだけでなく、私は哲学自体が「人間観察」の集積であると思います。卒業後は一般企業の営業職に就く予定ですが、人を観察する重要性、面白さに気付いたことは、今後の仕事にも活きる大きな収穫だと感じています。文献を読み込み、研究を深めること、それは哲学の先人たちとの対話。 文献を読み込み、研究を深めること、それは哲学の先人たちとの対話。 卒業論文を執筆するにあたり、ベルクソンの著作とともに何冊もの笑いに関する参考文献を熟読した。代表を務める哲学サークル「アゴラ」では、読書会や討論などを実施。金杉先生が顧問を務めている。金杉 武司 教授専門:西洋現代哲学、心の哲学岩本 寛史 4年生[取材時]私立明星学園高等学校内定先:株式会社ZEPE自分自身の興味を突き詰め「笑い」を哲学する。研究に没頭することで思い至る哲学と人間観察の関係性。金杉先生の著作『心の哲学入門』(勁草書房)。心の哲学のみならず、哲学一般の入門書として7刷を記録(取材時)。文学部哲学科053

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